江戸時代は中央集権でありながら、地方分権の時代だった。それぞれの藩に小さな政府があって、それなりに自立していたことが地方の力を培った。お国自慢の伝統を育み、地方のやる気を引き出した。藩は名産品を競ってっつくった。江戸時代が終った時には、二百七十六の藩があった。

　明治に入ってからの日本の発展は、地方が発達していたことも、力となった。日本が多くの藩に、分かれていたのは、江戸時代前の群雄割此拠の時代がもたらしたが、幕藩体制の下で平和裡に共存したから、地方の力を養った。

　中国と朝鮮では皇帝と国王が絶対権力を握って、中央から官吏が地方に派遣されて治めた。宮廷では賄賂が横行して売職買官が行われ、地方長官はもとを取るために、任期中に民衆を徹底的に搾取した。

　李朝時代の有名な小説に、李朝時代を舞台にした『春香伝』がある。朝鮮では著述を行うと迫害されることが多かったので、この作者も不詳である。李朝後期の作であるが、悪代官が宴を催している場面がある。

　「美酒は千の民の血にして、玉のようなる盤の上の佳き肴は万の民の膏なり、燈台の蠟が落ちるとき、民の涙落ち、歌声の高き處に、民の怨みの声も亦高まる」と、描かれている。

　韓国の催基鎬・加耶大学教授が『韓国堕落の二〇〇〇年史』のなかで、李朝のもとで民衆に対する苛斂誅求がいかに酷かったか、李朝末期の代表的な知識人だった、李人稙の詩『血の涙』を引用している。

　「両班たちが国を潰した。賊民は両班に鞭打たれて、殺される。殺されても、殴られても、不平をいえない。少しでも値打ちがある物を持っていれば、両班が奪ってゆく。妻が美しくて両班に奪われても、文句を言うのは禁物だ」

徳の国富論　資源小国　日本の力　6章　「指導者」や「独裁者」がなかった日本語