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外交評論家 加瀬英明 論集
いったい、宗教はどうやって、ひろまってゆくのだろうか。
神道や、ユダヤ教は部族の信仰であるから民族を超えることがない信仰であるし、異邦人の間にひろめようとしない。
世界宗教のなかで、武力を用いることなく、国境を越えてひろまったのは、仏教だけである。
これまで、もっとも大量に人間を殺した宗教といえば、キリスト教だ。
キリスト教は、一神教にともなう傲りから、「真理」をひろめるためと、富を得る実利を兼ねて、略奪によって富を獲得するために、中東、アフリカ、南北アメリカ、アジアにわたって、全世界にキリスト教圏をひろめた。そのあいだに、おびただしい数にのぼる人を、容赦なく殺戮した。
イスラム教も武力を用いて、イスラム教圏を急速に拡大した。
キリスト教は、ローマ帝国のコンスタンティヌス1世が4世紀にキリスト教に改宗したことによって、キリスト教を国教とすることにいたったが、それまでキリスト教徒は、激しい迫害を蒙っていた。
イスラム教は違った。長い苦節の年月を送ったキリスト教とちがって、イスラム教圏を短期間でひろげた。
モハメッドが610年に神の啓示を受けてから10年もしないうちに、その軍勢がメッカを占拠し。632年までに全アラビア半島を征服した。
モハメッドは宗教、政治、軍、商売の長を兼ねており、エジプトからイラン東部までをその支配下に置いた。
今日でも、イスラム教圏を「ダル・アル・イスラム」と呼び、異教徒のもとにある地を「ダル・アル・ハルブ」と言う。
モハメッドがイスラム教を開いてから、1世紀以内に、中東から、北アフリカ、スペイン、ポルトガル、中央アジアにいたるまで征服した。
イスラム教は、827年にはイタリアのシシリア島 、1001年にインド中央部、1357年にバルカン半島、1453年にコンスタンチノープル、1526年にインドネシアのジャワ島、1565年にインド南部まで制覇した。
イスラム教徒は『コーラン』を、アラビア語で朗読しなければならない。『コーラン』を朗読すると、音律が美しいと言われる。教祖モハメッドは、文盲だった。当時、アラビア語はアラビア半島中央部と北部に限られた言葉だったが、イスラム圏にわたってひろまった。
イスラム国家は、モハメッドが最高権力者として、親しく治めて以来、シャリアー(イスラム宗教法)による統治だった。
イスラム教は、勝利の宗教だった。多くのイスラム教徒が、イスラム教が正しいから急速に世界にひろまったと、信じたにちがいない。これは神の意志と、援けによるものだと。今日でも、このような歴史が、イスラム教徒に自信をもたらしている。
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