トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 「若者と老人の根性を正したい」外交評論家 加瀬英明
外交評論家 加瀬英明 論集
アメリカで低所得者住宅ローンが行き詰まったのを発端に金融危機がはじまって、不況の高波が世界を襲っている。
私にとっては、朗報だ。「金が万能」という世相が少しでも正されるのであれば、世界不況も歓迎しなければならない。
といっても、不況は碌なことがない。経済は多分に人の心理によって、動くものだ。日本政府として早急に、大規模で、果敢な財政出動を行って、経済危機を突破することを企てるべきである。
そんな時に、海外留学を希望する若者たちに代わって、留学したい大学や、ホームステイ先を手配する業者が倒産したために、虎の子の貯金を払い込んだ多くの若者が被害にあったことが、新聞やテレビによって大きく報じられた。
私は海外留学を志望する若者たちが、どうして自分の手で留学先の大学を選び、入学手続きを行い、ホームステイを含めて寄宿先を決めることが出来ないのか、理解することができなかった。何ごとについても安易に考える若者たちが悪徳業者の罠にはまるのは、自業自得だと思った。今日の若者は、依頼心が強すぎる。親や学校の教育というか、時代精神がなっていないのだ。
私がアメリカの大学で教えたことがあることから、時々、若者が留学したいといって、紹介状を持って相談にやってくる。私は若者に自分でインターネットで調べたうえで、大学に連絡をして、入学許可を取り付け、寄宿先も紹介してもらうように、指導してきた。
多少、英語ができれば、それほど難しいことではない。そこまで英語ができないのなら、海外留学なぞ志すべきでない。試行錯誤することが、留学の入り口として勉強になる。
私はそのような若者がやってくると、自立しなさいと励ますことにしている。そのようにして留学したのが、もう五、六人になる。はじめは短くても一年、留学希望先の大学の英語学校に編入する。なかには、アメリカの大学で修士号をとった者もいる。
被害を蒙った若者たちが、テレビのニュースに登場して、「夢が壊された」とか、「ためた貯金を、ごっそり奪われた」と、ベソをかいていたが、何でもカネで買えると思う世相こそ、嘆かわしい。
テレビ局は被害者の若者たちに同情した画面をつくって放映していたが、このような若者たちこそ大いに批判されるべきである。きっと、テレビは朝から晩まで、人々に無駄づかいをするように煽ることを、生業としているからなのだろう。
悪徳業者に騙された留学希望者たちは、払い込め詐欺の被害者よりも、程度が低い。払い込め詐欺の被害者のほとんどが老人であるが、留学のほうは若者だ。なんで自分で手続きをしないのか。
入学手続きも自分でできないような者は、留学しても、たいした者に成長しないはずだ。行かないほうがよいのではないか。
振り込め詐欺によって騙された老人たちも、金が万能という世相によって毒されている。弁護士とか、警察官だと名乗って、「あなたの息子が電車内で痴漢を働いて逮捕されたが、今すぐ二百万円あれば示談が成り立って、釈放される」といった手口で、振り込ませるというものである。
ひと昔の母親だったら、凛として「そのような息子は、ひとつ存分に懲らしめて下さいまし」とか、「どうぞ、お灸をすえてやって下さい」といったことだったろう。老いも若きも、何でも金次第で買うことができると思うから、恥知らずだ。
老人は本来であれば、社会の鑑である。若者に手本を示さなければならないのに、詐欺師の電話を受けてATMに慌てて走るのは、浅ましい。
それにしても、息子だと名乗る者の口車に乗ってしまうのは、日本で家族が崩壊したことを意味していて、おぞましい。家族がばらばらになって日常の接触がないのだ。
留学詐欺の罠に落ちる若者も、子や孫が不祥事を起こしたと詐欺師にいわれて、ATMを操る老人も、金々々ということでは、詐欺師と同じ世界に住んでいよう。
福沢諭吉といえば、一万円札を飾っている。明治の日本をつくった、偉人の一人である。金といえば、福沢を思ってほしい。
福沢の箴言の一つとして、「独立自尊」という言葉がある。
しばらく前のことになるが、私は銀座の交詢社から、講演を依頼された。
交詢社は福沢が明治十三年に欧米諸国に倣って、紳士が集まって親睦をはかるクラブとして創立した。私は演題は何にしましょうかと問われて、とっさに条件反射のように、「福沢精神と今日の日本」と答えてしまった。
その日が来た。私は福沢諭吉の研究家ではなかったので、ひどく悔いた。
そして、銀座までゆく車中で、福沢に「独立自尊」という有名な言葉があって、二つの言葉から成り立っているが、いったい独立と自尊のどちらのほうが大切なのだろうかと、思案した。
たまに役に立つ閃きを得ることがある。着く前に自らを尊べば、人も国家もおのずから独立するのだと思って、そう前置きして話した。何ごとも、出発点がよいことが大切なのだろう。講話は案外に好評だった。
福沢は武士の子として、幼少から旺盛な自立心を持って育った。生涯を通じて、強烈な個人意識を培った。
自らを尊ぶためには、自らの手で尊ぶに価いする自分を創らなければならない。そのような努力をすることによって、はじめて自立することができる。
今日の日本は、近隣諸国の軽蔑をかっている。そのために、国民がすっかり畏縮している。まず、自らの伝統文化と歴史を尊ばねばなるまい。
戦後の日本は、アメリカに国防を代行させて、国の大事である国家の独立を依存してきた。情けない。日本が自立するためには、自らを尊ばねばならない。(自由 12月号より)
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