社会
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今を遡る事100有余年前、地球上にトラは約10万頭が生息していたという。それが現在では推定わずか約4,500頭、この事実を改めて突きつけられると、暗澹とした想いに駆られてしまう。
そのトラの最大の生息地インドで昨年、国内に生息する野生のトラの個体数が過去数十年に渡る保護運動の成果で、倍増を上回る3,167頭に達したとの報告があった。2006年には過去最少の1,411頭にまで減少し、絶滅が切迫感を持って危惧される状況にまで陥った時期もあった。
インドのモディ首相も今回の報告に伴い、「兄弟とみなされることも多いトラと我々の付き合いには数千年の歴史がある」と演説。「人類のより良き将来は多様性の確保が維持されている場合のみ可能」とも説いた。
1973年に開始されたインドでの保護活動は、事業の開始時に9カ所だった保護区を53カ所にまで拡大。対象の面積は約7万5,800平方キロまで拡がった。また孤立した生息地を繋げる為、関係する村落に全面移転などの具体的対策も講じてきた。また、トラの個体数把握、活動の調査なども地道に続けられてきたという。
トラの狩猟は1972年に公式に禁止、ただ密猟は依然横行し、2005年には1カ所の保護区でトラが完全に絶滅する事態にまで陥った。トラの生息数の激減は、インドで人口が急増した1940年代と重なっている。農地拡大、森林の伐採やインフラ建設が進み、縄張りとしていた土地が縮小、生息域は孤立を余儀なくさせられてしまった。現在の生息地の広さはかつてのわずか7%ともいう。
人口が爆発的に拡大してきたインド、狭まる生息地はトラと住民との歓迎されぬ遭遇が増えることを意味していた。村落で、住民を襲う事例も多数発生、自然保護一辺倒では立ち行かぬ厳しい現実がそこにあったであろうことは想像に難くない。
ただ世界のトラの約7割が生息する彼の地、インドにおいてトラの個体数が復調の兆しを見せている事は素直に喜びたい。世界最大の肉食動物、気高き狩人であるトラは、アジア人に取って特別な存在、そんなトラが子々孫々まで命を繋げる星である為の、我々の責任は極めて重い。
小松隆