社会
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10月20日に刊行された菅義偉首相の著書の評判が芳しくない。新たに書き下ろしたものではなく、自民党が野党だった2012年3月に文藝春秋から発売された単行本『政治家の覚悟』を改訂して文春新書として再刊したものだが、以前にあった記述が削除されていたのだ。旧民主党政権を批判した2章分で、東日本大震災への対応の議事録が残されていなかったことについて「議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民への背信行為」と記していた。代わりに安倍内閣の官房長官時代のインタビューが加えられた。
しかし、安倍政権では、森友学園、加計学園、桜を見る会の問題など、公文書の改ざんや廃棄が続出した。それで、公文書管理の重要性を書いた部分は逆に自分にとって不都合となったようだ。
元の本の刊行当時、菅氏の知名度・人気はまだまだで、出版社としては売れ行きに懸念があったはずだ。文藝春秋は発売元になっているが、発行元は文藝春秋企画出版部という子会社になっているのはその辺の事情を物語っているようだ。この会社は自費出版を手掛けている。私の知人もここから著書を出した。原稿を事前に読んで「出版は無理」と思ったレベルだったので驚いた。著者が製作費を払うとか、本を買い取るなら、出版社にリスクは生じないので何でもウェルカムなのか。
菅氏の本も書店売りをしたかもしれないが、多くは選挙区で配られたのだろう。定価1300円(税別)なのにインターネット通販サイトで一時は10万円の値がついたのは、内容への評価ではなく、品薄のためと思われる。
改訂本を出した文春新書編集部では「特定の文言の削除を意図したものではなく、全体のバランスを考え、編集部の判断で割愛した」とコメントしているそうだが、著者の承認なしにカットすることは常識的にはあり得ない。「週刊文春」で菅内閣の暗部を追及しているのに、同じ会社で問題の多い首相本を出すのはどうにも分かりにくい。
山田 洋