トップページ ≫ 文芸広場 ≫ 信じてくれてありがとう~映画『怒り』を観て
文芸広場
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「信じてくれてありがとう」と直人(綾野剛)は言った。ゲイの優馬(妻夫木聡)は出会った日に、直人を同居させるのだが、直人に向かって「信じてないから、何かあったら通報する」というようなことを言う。信じてない人に向かって信じてないとは言わないので、直人は自分のことを信じてくれてありがとうと感謝するのだ。
映画を観て、このシーンがいちばん残った。綾野剛は、儚げな直人そのもので、妻夫木聡は、身体つきとか眼つきとかゲイそのものに成り切っていた。先日、女優との結婚が報告されていてよかったと思った。それがなければ、本当にゲイなのではないかと疑うほどの完成度。映画のためにふたりは同棲生活を送ったとのことだが、ふたりの静かな時間があまりにも自然だった。ラブシーンも美しかった。
物語は、殺人事件の容疑者によく似た素性の知れない3人の男をめぐって、千葉編、東京編、沖縄編の場面が交錯する。俳優陣は、主役級の豪華メンバーで、その演技には圧倒される。信じることとは?という問いを常に突きつけられて、映画を見終えた時には、ぐったりした。
わたしは、ひとをどれだけ信じられるだろうか?自分さえも信じきれていないというのに。
檀 ままこ