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教育クリエイター 秋田洋和論集
いよいよ夏休み,受験生にとっては「勝負の夏」がやってきます。お子様が勉強することはもちろんですが,保護者の皆様も色々と勉強しなければならないことがたくさんあります。「私はよくわからないから」という方も時々いらっしゃいますが,近年は高校入試も情報戦です。保護者が積極的に動いてお子様をバックアップしなければならない場面がありますから,最新の受験情報には普段から気をつけておいてください。
さて,平成22年度の埼玉県公立高校入試は,システムが大きく変更された中で行われた最初の入試であったことを前回お伝えしました。今回は,主だった変更点を確認するとともに,それらが受験生の合否にどのように影響を及ぼしたのかについて検証していきます。
○ 前期・後期の募集方法が変更された
埼玉県公立高校入試では,これまで前期募集では「定員の40%程度まで,学力試験は無し」という
システムをとっていましたが,これが「定員の75%程度を,5教科入試で」と変更しました。これは募集のメインが後期から前期に移ったこと,学校ごとに選択が可能とはいえ選抜において学力の占めるウエイトが大きくなったことを意味します。
また,従来の「1教科40点満点」を「1教科100点満点」に変更した影響を見逃すわけにはいきません。例えば問題数をともに20と考えると,従来は「1問2点」だったものが「1問5点」になったことになります。実際にはもっと細分化された配点になりますから,これまでに比べて「同得点」の生徒が明らかに減少したであろうと予想できます。特に合否のボーダーライン上に存在する受験生の数は,各高校においてこれまでに比べかなり減ったのではないでしょうか。
○配点変更が及ぼす影響
次に,平成22年度の公立高校入試における平均点をご覧ください。
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国語 |
数学 |
英語 |
社会 |
理科 |
合計 |
前期 |
56.2 |
42.4 |
52.9 |
49.5 |
51.5 |
252.5 |
後期 |
59.9 |
47.6 |
54.8 |
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162.3 |
前期では数学と社会が,後期では数学が平均50点を下回りました。数学では証明問題が「完全証明(穴埋めではなく,最初から最後まですべて記述する)」になったことなどが影響しています。
従来の入試(40点満点)では,証明問題の配点が2点(1題)であったため,「苦手だから空欄にして,できる問題を確実に正解する」作戦も有効でした。この程度の配点であれば,証明に費やす時間を計算問題の見直しにあてるだけでも,あるいは他教科まで視野に入れれば,失点した分を十分に挽回できる可能性がある点数だったからです。ところが新制度の入試(100点満点)では,前後期ともに証明の問題が2題出題されていて,配点は「6点」と「7点」という高いものになりました。もちろん途中まで正解できていれば「部分点」をもらうことが可能ですが,受験生全体を考えると「空欄」のまま解答用紙が提出されたケースが多かったのではないでしょうか。他教科の平均点も決して高いものではなかっただけに,特に倍率の高かった高校では,数学での大量失点がそのまま合否に直結してしまった例もあったのではないかと想像できるのです。
○激戦の後期募集を勝ち抜くには
こうした状況を踏まえると,受験勉強の方法もこれまで以上に工夫が必要です。これまで公立高校入試に対する準備としては「5教科をまんべんなく勉強し,苦手教科を作らない」ことが一般的でした。
しかしながら,後期募集が「英数国の3教科入試」であることまで視野に入れると,「3教科は私立高校入試レベルまで,理社は公立レベル」の準備をしておくことが必要になります。誰も表だって発言することはありませんが,今回の「後期募集における3教科入試導入」開始の背景には,「これまで私立高校に流れていた受験生を(特に進学校で)受け入れたい」という意図が見え隠れするのです。
ご承知の方もいらっしゃると思いますが,埼玉県内のほとんどの私立高校では「英数国の3教科入試」で選抜が行われます。理社がない分だけ,3教科で問われるレベルは公立よりも高い場合が多く,中には大学入試レベルの問題を出題してくるところもあるのです。例えば早稲田や慶應,立教大学の附属高校受験を考える生徒の場合,早い段階から塾に通って「難しい問題」への対応を専門的に勉強することが一般的で,入試に理社が必要ないことから受験勉強も3教科に絞ってしまうケースも珍しいことではありません。
これまでだと,こうした生徒が浦和高校や大宮高校といった「県立トップ校」を併願校(自分の志望する私立高校に合格しなかった場合に受験する学校)に挙げるケースは,理社の対策がネックとなっていたためそれほど多くありませんでした。 ところが,「後期募集であれば3教科で入試が受けられる」となれば,実際に受験するしないは別として,こうしたレベルの受験生の多くがトップレベルの公立高校に出願することが可能になります。彼らにとってみれば公立の入試問題は易しく見えるわけですから,心理的には優位に受験会場に向かうことができるでしょう。
同様の現象は,程度の差こそあれ,偏差値65の学校でも60の学校でも起こることでしょう。激戦の後期募集で「確実に合格したい」と考えるのであれば,自分が志望する公立高校の偏差値よりも「3~5程度高い私立高校」の入試問題にも対応できる学力を身につけておくことをお勧めします。特に各地域のトップレベルの高校を考えている場合には,「公立の入試問題が易しく見える」レベルで普段から勉強を進めておく必要があるのです。
~秋田洋和~
清和大学法学研究所客員研究員。
私立中学や学習塾への教育コンサルタントとしても活躍。