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教育クリエイター 秋田洋和論集
3月10日(水),平成22年度埼玉県公立高校入試(後期募集)の入学許可者が発表されました。新しい制度が導入されて大きく様変わりした今年の公立入試を,様々な角度から検証していきたいと思います。 第1回は「もしも埼玉県の中学生を40人(1クラス)と考えたとしたら」です。今年の中3生の受験動向について検証してみます。
①平成21年12月15日付の「進路希望状況調査」を見ると(表1),1クラス(40人)の進路動向は,おおまかに,
全日制公立高校への進学を希望する者 30名
全日制私立高校への進学を希望する者 8名
その他(定時制,進学しないなど) 2名
と考えることができます。
(表1)「進路希望状況調査」より抜粋(H21.12.15)
☆進学希望者(高等学校進学希望者は97.8%)の内訳 |
全日制公立(県外含む)75.6% |
全日制私立(県外含む)19.6% |
その他 4.8% |
②平成22年1月22日より県内私立高校の入試がスタートし,全日制私立高校への進学を希望する8名については,ほぼ全員が1月中(都内私立第1志望の場合は2月中旬まで)に合格校を確保し(ほぼ進学先),公立高校志望者の大半も合格校を確保しています。
③公立高校の前期入試は2月16・17日に,合格発表は2月24日に行われました。この入試によって,普通科であっても表2の通り「公立高校の定員のほぼ4分の3」が満たされたことになりますので,全日制私立高校への進学を希望した生徒(30名)のほぼ4分の3,つまり「およそ23名」がここで入試を終了したことになります。
(表2)平成22年度埼玉県公立高校入学許可者に関して(前期)
普通科 |
募集人員:30200 |
前期募集人員:22794(75.5%) |
H22年度実質倍率:1.65 |
④この結果,2月24日の時点で「まだ入試が続く」生徒は,1クラス(40人)のうちおよそ7~8人ということになっていることに注目してください。昨年の前期募集(推薦)では合格発表日が2月10日と早めでしたが,この日までに進路が決まった生徒はおよそ半数程度であり,まだクラスの中には「入試本番はこれからだから頑張ろう」という緊張感があったことでしょう。
しかしながら今年の場合,2月24日の段階でクラスの8割程度の進路が決まってしまったことから,
担任がクラス運営に失敗すると「残りの授業は消化試合」という雰囲気が生まれてしまい,まだ受験の続く生徒のモチベーション維持に支障をきたす恐れがあったのではないかと推測できます。クラスの話題が「いつディズニーランドに行こうか」でもちきりになれば,とてもではありませんが残り7~8人の少数派の生徒が「休み時間に教室で勉強すること」は無理でしょう。
今後,今年の受験総括が学校・塾それぞれに行われ,保護者からの体験談もネットなどを通して世に出回ることにあると思いますが,私が最も注目するのは「後期受験へのモチベーション維持」に関する周囲のバックアップ体制がどうであったかという点です。この部分にプラスの評価が多ければ新中3生の間にも「後期まで頑張ろう」という流れが生じると思いますが,逆に「とても勉強できる雰囲気ではなかった」という意見が主流になるようであれば,受験生の間に「早く決めてしまいたい」という心理が生じても不思議ではありません。それが「前期入試において受験校のランクを落とす」のか「私立に絞って早く決める」動きになるのかはわかりませんが。
⑤公立高校の後期入試が行われたのが3月4日でした。表3に示すとおりの「狭き門」となったことから,来年度以降の受験における「後期入試への対応」は注意が必要です。
(表3)平成22年度埼玉県公立高校入学許可者に関して(後期)
普通科 |
募集人員:30200 |
後期募集人員 7224 (23.9%) |
H22年度実質倍率:1.79 |
「狭き門」となったことには2つの要因が考えられます。一つは景気動向とあわせて「何が何でも公立」という受験者層の存在。この場合,自分の成績より1~2ランク下げた形での出願で確実に合格を狙う戦略を立てたことが予想されます。もう一つは「チャレンジ層」の存在です。私立高校の合格を確保したことにより,「ダメでもともと」のつもりでトップレベルの高校にチャレンジしたであろう生徒の存在は,決して無視することができません。表4では主な公立高校の受験倍率を紹介していますが,偏差値ランキングにおいて上位に来る高校の後期倍率が軒並み高くなっていることに注目するべきです。
今年の入試結果からは「公立が本当に厳しかった」ことがうかがえます。この傾向は来年以降も続くことが予想されます(埼玉県が入試制度改革を行った意図を考えれば当然の結果です)。後期入試が「3教科受験」であることを考えれば,「何が何でも公立へ」という層においても「英数国の3教科は私立受験を想定して,公立レベル+αの準備が必要」という動きが,今後数年の間に一般的になるかもしれません。
(表4)主な公立高校の受験倍率
県立浦和 前期 2.09 後期2.47 |
大宮(普通) 1.86 2.84 |
(理数) 3.97 3.70 |
浦和一女 2.25 3.03 |
川越 2.00 2.62 |
春日部 2.04 2.65 |
川越女子 2.21 3.25 |
市立浦和 2.62 3.34 |
熊谷 1.88 2.23 |
不動岡 2.03 2.17 |
蕨 2.32 2.69 |
越谷北(普通) 1.87 1.89 |
(理数) 1.43 2.00 |
所沢北 2.12 2.21 |
熊谷女子 1.78 1.95 |
松山(普通) 1.62 1.88 |
(理数) 2.07 1.20 |
浦和西 1.94 2.16 |
川口北 2.05 2.42 |
熊谷西(普通) 1.69 1.59 |
(理数) 1.50 1.50 |
和光国際 2.28 2.23 |
越ヶ谷 1.87 2.08 |
春日部東 1.60 1.53 |
所沢 1.84 1.92 |
伊奈学園総合 1.45 欠員補充のみ |
坂戸 1.71 1.60 |
浦和南 2.39 2.50 |
大宮北 1.74 2.01 |
川越南 2.10 2.04 |
春日部女子 1.71 1.82 |
大宮光陵(普通) 1.51 1.71 |
越谷南 2.03 1.90 |
朝霞 1.62 1.71 |
秩父 1.24 1.00 |
羽生第一 1.25 1.17 |
~秋田洋和~
清和大学法学研究所客員研究員。
私立中学や学習塾への教育コンサルタントとしても活躍。