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文芸広場
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キッチンの蛇口が勢いよく、高く噴き出す。
噴き出すというか、噴き荒れるといったほうが適切であろう。
まるで噴水のように、いや噴水ほど美しくない。
助けて、助けて、と叫んでいる。うるさい。今すぐに助けるから待ってやがれ。
何のことはない。単なる故障である。
すぐにレスキュー隊が来る。
水道は落ち着きを取り戻し、いつもの自分に戻る。
その後、お風呂に入った。
毎晩お風呂には防水である携帯を持って入り、ネットや動画をみる。
今宵は疲れを癒そう。ゆっくり肩までつかろうと携帯を部屋に置き、入る。
夜の静寂のせいなのか。
ぽた…ぽた…ぽた…と小さな音が聴こえる。
いや、わずかな鳴き声だ。
昔から私はひとの涙に弱い。私がどうにか助けなくてはと思ってしまう。
ずっと、ひそかに助けてと言っていたんだね。ごめんね。毎日会っていたのに気づいてあげられなくて。
密かに涙を一滴ずつこぼしていたその蛇口に詫びた。
何日泣いていたのか、修理のひと曰く、長い年月だったらしい。
いや、もしかしたら、日々の忙しさで見て見ぬふりをしていたのかもしれない。
ひとにも、自分の苦しみを訴えるのが上手いひと、不器用なひと、隠れてひとり泣いているひと、ひとそれぞれだ。
だからこそ、密かに泣いているひとの心がわかってあげられることがいかに大切であるかだ。
多くのひとがそうであれば、世の中の自殺は少なからず減少するだろう。
直ったお風呂の蛇口を見つめながらそんなことをひとり想った…。
水口 道子
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