文芸広場
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この季節になると懐かしき故郷の音が私の耳に届く。
それはまぎれもなくあの懐かしき音色だ。
私が生まれた街は城下町であり、そこはかとない風情がある街で、ところどころに昔の名残がある街であった。
それとは対照的に今はなき隣町は何にもない町でこの町の長所を挙げるとしたら工業団地があるところだ。
山崎パンやナビスコ、ギンビス、積水ハウス、その名を知られている有名企業の工場があった。
その町に私の両親が経営する食堂があった。
二階は宴会場になっており、お客さんがいないときは私がそこにあるカラオケのマイクをとり歌っていたものだ。
しかし、その私の声に負けないようにと、道の向こう側から大きな音色が聴こえてきた。
音色というと聴こえがいいが、それは田んぼに生息するカエルたちの合唱である。
子供だった私は、そのカエルの鳴き声がたまらなく嫌で嫌で、カエルたちが田んぼから店へと侵略してくるのではないかという子供ながらわずかな不安を抱いていたものだ。
それも今となっては私にとっての良き思い出となり、その合唱が音色と化したのである。
今宵も、望郷の念に駆られながら、満ち足りた気分で自宅に帰ってきた。