トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 日本の新聞が見出しを大きくする理由
外交評論家 加瀬英明 論集
私は東京で出ている新聞は、いちおう全部取っている。朝日、読売、毎日、日経、サンケイ、東京新聞である。数ヶ月分は保存しておくが、すぐに小山のようになってしまう。
この他に外国の新聞では、インターナショナル・ヘラルド・トリビューンを航空便で、購買している。英字新聞をみる必要がある時には、私の仕事場の上にアメリカ人の友人が住んでいるので、借りにゆく。ニューヨーク・タイムズをはじめとする外国の新聞を読む必要があれば、外人記者クラブの準会員となっているので、有楽町まで出かける。
日本の新聞は、何といっても見出しが大きすぎる。これは日本の新聞の際立った特徴の一つである。
日商岩井の海部八郎前社長が逮捕された時には、どの新聞をとっても、一面のトップに黒字に白抜きの活字を使って、紙面を横断する、大きな見出しを掲げた。大きな順から並べてみると、東京新聞は紙面の幅いっぱいに拡がり、次に大きいのが朝日新聞だった。大きさは東京が三十二×五センチ、朝日が二十三センチ×五センチ、毎日が二十三×三センチ、読売が二十一×四センチ、サンケイが二十二・五×四センチというものだった。もっとも日本経済新聞だけが一面ではあったが、トップでなく二番目に扱っていた。
アメリカや、ヨーロッパでは高級紙といわれる新聞の見出しは、みな、おとなしい、小さなものである。ニューヨーク・タイムズや、ロンドン・タイムズを見慣れていると、日本の高級紙といわれる新聞は見出しが大きくて、どぎついのが、どうも気にかかる。神経が疲れてしまうのだ。
いったい海部前副社長が逮捕されたのが、それほど大きな見出しを必要とする、大きなニュースなのだろうか。四月八日は日曜日で、知事選挙の投票日だったが、東京では午後から強い風雨となった。そして翌日の夕刊は、鈴木俊一氏が都知事に当選したことを報じていた。見出しの大きさを計ってみると、読売は「東京は鈴木、大阪・岸氏 革新二大拠点も失う 太田氏に36万票差 鈴木氏保守・中道の組織力」というもので、記事面のおよそ二十三%に当たる四百二十平方センチをとっている。(この他に「神奈川、長洲氏再選」とか、「〝実務型〟求めた住民 野党は二極化 自民、総選挙にはずみ」といった小さな見出しがあるが除いた。以下、他紙についても同様である。)
この日の読売の夕刊の一ページ目は、紙面の約四分の一以上が大見出しに使われていた。朝日は「都知事に鈴木氏 太田氏に35万票差 麻生氏伸びず 両都も『自民・中道』主軸 革新自治体、拠点拠点で壊滅 大阪では岸氏 黒田氏の三選阻む」というもので、およそ三百六十平方センチである。見出しの内容は似たようなものであるから、省略するが、サンケイが三百五十平方センチ、毎日
が三百十平方センチであった。
見出しは大きいほど、大きなニュースであるということが暗黙のうちに約束されている。そして大きなニュースであるほど、読者の好奇心をかきたて、昂奮を誘うものである。そこでいつも大きな見出しを使っていると、読者のほうはいつも焦燥感に駆られるようになり、落書きを失ってしまう。こういった昂奮を求めていると読者にとっては、なおさらのことである。ニュースが感情的な排け口となってしまう。
しかし、本来ならば、ニュースは冷静に、理性的に読むべきである。感情の対象としてはなるまい。絶えず大きな見出しをつくることによって感情面に訴えるので、世論が感情的になり、情緒が過多で不安定でになってしまうのである。ニュースを感情の対象とすると、世論は熱し易く、冷め易くなる。事実の生命よりも、感情の生命のサイクルは短いのだ。そこで日中正常化ブームや、石油ショック、田中金脈事件、ロッキード騒ぎ、急激な円高による危機感、日中平和友好条約、グラマン疑惑といったように、次々に読者を熱狂させ、あるいは浮足立たせるブームや、ショックが押し寄せては、消えていってしまうことになる。そのたびに読者は付和雷同する。
日本の新聞は見出しの活字の下に、渦巻きの模様を入れることをする。今朝(四月十三日)の朝日新聞を見ると、一面トップは「政府調達 譲歩対案早急に詰め」、「首相、外相らに指示 訪米前に決着の方針」というものだ。前の部分が黒地に白抜きの活字を使って、渦巻きの模様を入れている。毎日の一面のトップの見出しは、「100万ドルは日商工作資金」、「事務所経費238万ドルの流れ解明 地検 ダ社に上乗せ請求 RF4E売り込みに使い」というもので、前の部分がやはり黒地に白抜きの活字で、渦巻き模様が使われている。
私にはこの二つのニュースとも、渦巻きを入れるほどのニュースであるとは思えない。しかし、こういったけばけばしい見出しは読者に事実を知らせるということよりも、感情を刺激しようとしているようである。
個性の時代 ミーイズムのすすめ 6章 新聞にみる「センセーショナリズム」
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