コラム …男の珈琲タイム
立春とは名ばかりで凍てつくような氷雨が街の舗道を濡らし続けている。晴れれば冷たい北風が吹きすさぶ。世の中のことは、すべて同じだ。到達するまでには厳しい試練に耐えなければならないのだ。そのうち梅が咲く。梅の香は試練に耐えぬいたからこそあの独特の香りを匂わすのだ。
「武蔵野の雪となりたる梅見かな」という句があった。梅の季節にはまだ雪があって冬をひきずっている。姉が帰らぬ旅人となってもうじき一年になる。「梅の香をかぐと生の喜びを感じるわ」と姉はよくつぶやいていた。「だってもう少しがまんしているとあの美しい桜の季節がくるからね」。好きだった梅の香も桜も見ずに姉は花の生涯を終えた。
そして私は姉を思い浮かべながら、己にムチ打ち「媚びず、恐れず、驕らず、卑下せず、霜雪の寒にも自若として微み、揺ぎなき気魂をもって・・・・」小説の中の言葉を力として本当の春に向かっている。