トップページ ≫ 外交評論家 加瀬英明 論集 ≫ 中国とは国ではなく、文明である
外交評論家 加瀬英明 論集
中国は、国ではない。
ほとんどの人々が、中国を国だと思っているが、大間違いだ。この点こそ、中華文明を理解するのに当たって、もっとも重要な鍵となる。
中華帝国は、紀元前の秦から始まって、最後が、20世紀に入って滅んだ清だが、すべて王朝の名前であって、国の名前ではない。漢、隋、唐、宋、元、明から清まで、すべて王朝名であって、国名が存在しなかった。
どうしてなのか?中国の皇帝は、天帝によって天子として任命されて、全世界を支配すると信じていたから、国の名前を必要としなかった。対等な国なぞ、どこにも存在するはずがなかった。
ところが、清朝が第一次阿片戦争で、イギリスに敗れて、1842年に揚子江に浮かぶ、イギリス艦隊の旗艦『コーンウォリス』号の艦上で、南京条約を結ぶことを強いられた。国と国との条約だから、この時、はじめて国名が必要になった。
そのために、清という王朝名を、便宜的に国の名として用いた。黄地に龍をあしらった国旗も、この時にはじめてつくった。それ以後、中国は国名を持つようになった。
だが、中国はいまでも国ではなく、文明なのだ。
習近平国家主席が、「悠久の中華文明の偉大なる復興」と、さかんに叫んでいるが、けっして過去にあった国家を、再現しようとしているのではない。「文明」と述べているのに、注目しなければならない。
恐ろしいことに、国ではないから、国境が存在していない。中国は周まわりの国々や、民族をつぎつぎと呑み込んで、膨張してきた。支配したところは、すべて中華文明に吸収される。
満州も、チベットも、新疆ウイグルも、内モンゴルも、中国が侵略して占領したところが、中華帝国の固有の領土として組み込まれてきた。
新疆ウイグル自治区と呼ぶのは、清朝6代目の乾隆帝(1711年~1799年)が、遠征軍を派遣して、占領したことによっている。新疆の「疆」は、「境」を意味する。
もっとも、他国を、武力を用いて呑み込んでも、侵略といわずに、「徳化」したのだった。中国が支配下に取り込んだ民族は、みな、中華民族と呼ばれるようになった。
中国は国境がない文明であるから、他国の領海も、排他的経済水域も、その国のものではない。他の国のものだということを、認めない。
このような”オレのものは、オレのもの。お前のものも、オレのもの”という”天下イズム”は、華夷思想と中華思想から発している。
北京で、中年女性の華春榮報道官が、しばしば内外の記者を集めて記者会見を行ない、「日本がナショナリズムを復活させているのは、危険だ」と、非難している。
だが、中国は自国の人民に、「愛国主義による、中華民族の復活」といって、ナショナリズムを、さかんに煽りたてている。
そのくせ、チベット人、ウイグル人、モンゴル人のナショナリズムは、許さない。「日本のナショナリズムは、危険だ」といって、日本を非難することによって、日本を少数民族と同様に扱っている。
習近平国家主席は、「中華民族の偉大な復興の夢とは、中国の夢だ」「中華民族の偉大な復興の夢とは、強軍の夢だ」「強軍の目標を心に刻み、その実践に身を捧げよ」という言葉を、乱発している。
習主席がいう「中国の夢」は、日本にとっても、インドから東南アジアまでの諸国にとっても、悪夢である。
習国家主席は、しばしば「戦争準備を整えよ」と、演説している。21世紀の世界のなかで、指導者が「戦争準備を整えよ」と叫んでいる国は、中国と北朝鮮しかない。異常なことだ。
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