トップページ ≫ 文芸広場 ≫ 寿司職人の恋~PART2 作・雪んこ
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俺の特技は寿司握りしかない。今日もこの俺を目当てに女たちが殺到している。
俺の特技に惚れたのか、いや俺自身に恋する女たちなのかと言ったら、後者のはずだ。
その俺のファンのひとりにモデル級の美しき女がいる。
女の名前は香。
香が俺の前に腰を掛けると、その名のとおり、甘美で清楚な薫りが立ち込める。
香の歳はいくつだろうか。その純真さが若く、その色香が歳をあげる。
真実の歳は知らない。そこがまた彼女の魅力なのであろう。
彼女は今日もまたひとりで俺の正面に座り俺を独占する。
彼女の春風駘蕩の笑顔が俺を癒す。
俺は多忙だった今日の疲れを癒すべく彼女の注文を聞く。
聞かなくても本当は分かっている。
なぜなら香は俺の唇を求め、それを寿司のネタとして表現する。
そう彼女が要求するものはすべて赤身。
彼女は俺を正面にしてもまわりを気にできる賢い聡明な女である。
彼女の注文する赤身が止まらない。もうこれでもかというくらい赤身だ。
唇が早く欲しいと言っているのだろう。
俺はそれにどうやって応えたらいいのか。
俺だってまわりの目は気になる。
いや、一職人としてそれは気にしなくてはならないのだ。
ではまず、どうすべきか。そうだ、店を離れ、デートに誘う。
いや待て、彼女の望みは唇だから店を出たところでいきなり唇を襲う。
そんなことを考えていた俺に彼女からふと想像すらしなかった言葉が出た。
「白身のおいしいところありますか」
彼女の求めているところはどうやら唇だけではなかった。
こうなると俺の心臓の鼓動が速くなると同時に乱れ始めた。
俺はこの女のためにとうとう職を辞する時がきたのか。
そう淡い決意を抱いたとき、その女から俺への甘ったるい笑みが発信される。
そしてまた耳を疑う言葉が発せられた。「お愛想お願いします」
女は俺の迷いに愛想が尽きたのか。俺にお愛想がないと言いたいのか。もう少しと愛の要求か。
俺は彼女が会計を済まし、店からでた瞬間俺も後を追った。
麗しき彼女、香は笑顔で言った。
「ごちそうさまでした」と。
俺は、我に返った。
寿司職人の恋~PART1「嫉妬」 http://www.qualitysaitama.com/?p=26575
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