トップページ ≫ 社会 ≫ 教育 ≫ 高校受験生の保護者が知っておくべき「通知表評定」の裏事情~前編
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10月に入ると,埼玉県内の私立高校(一部を除く)では「個別相談会」が活発に開催されます。その理由や目的は以前ご紹介した記事の通りですが,多くの私立高校が「通知表の評定(内申)」よりも「北辰テストの成績」を重視していることを御存知でしょうか。
〇通知表の評定は「相対評価」から「絶対評価」へ
我々が中学生だった時代に比べて,現在の中学生を取り巻く環境が大きく様変わりしていることは言うまでもありません。スマホをはじめとする生活環境はもちろん,「2学期制」を取り入れる学校が増えた,土曜日の扱い,・・・,といった「目に見える変化」だけでもたくさんありますが,その一方で「目に見えない変化」も確実にあって,その代表が「通知表の評定」だということはあまり知られていないのです。
通知表の評定は,2003年春の中学卒業生から「絶対評価」に変わっています。かつて我々が中学生だった頃の評定は「相対評価」といって,生徒を成績順に並べたときに,5段階評定を
5・・・7% 4・・・24% 3・・・38% 2・・・24% 1・・・7%
と配分することで決定されていました。
それに対して現在の「絶対評価」とは,簡単にいえば「他人との比較ができない(意味がない)」評価だと考えてください。指導要領に示されたそれぞれの目標(テストの結果+関心や意欲、態度)への到達度を評価するのもので,本人の頑張り度合いがストレートに評価として反映されるメリットがある一方で,皆さんも噂では聞いているかもしれませんが『テストで100点をとっても「5」がもらえない』『テストの成績はよくないけど綺麗なノートを提出したから「4」』などいう現象も起こりうるようになりました。
評価に「評価者の主観」が入る可能性があるこの仕組みは,先生によって,あるいは学校の方針によって評定のつけ方に差が生じる「評価の格差」を生む可能性があるのですが,昔と変わらずこの評定が調査書として高校入試に用いられているため(その扱い方は変化していますが), この不公平感は受験する生徒や保護者にとってはもちろん,私立高校側にとっても気になるところです。よって,「絶対評価」の内申を指標とするよりは「北辰テスト(ピーク時には県内中学生の9割近くが受験するといわれる)」の成績を基準にするほうがその生徒の平素の実力を客観的に判断できる,と考える私立高校が多数を占めているのです。
2008年に「通知表の評定にだまされるな」という記事を紹介してから8年が経過しましたが,この実情は変わることなく,むしろ「脱ゆとり」の流れに沿って加速している気配がありますから,保護者としては,自身のかつての経験を根拠とした「通知表の評定(内申)への過度な信頼」は避けなければいけません。
〇「評定の学校間格差」の実例
前述の「評定の格差」について,もう少し詳しく見ていきましょう。その実情が公言されることはあまりありませんが,それはおそらく「客観的資料に乏しくその実情が噂の域をでない一面がある」からなのでしょう。埼玉県では公表されていないのですが,東京都は「都内公立中学校第3学年の平成27年12月31日現在の評定状況」という資料によって「評定の学校間格差」を公表しています。東京の事情がそのまま埼玉にあてはまるとは言えませんが,中学生が背負っている一つの実例としてご覧ください。繰り返しますが,かつての「相対評価」での評定分布,
5・・・7% 4・・・24% 3・・・38% 2・・・24% 1・・・7%
との比較にもご注目ください。
練馬区 公立中学校(2校)の評定比較
|
国語 |
数学 |
英語 |
|||
|
A中学 |
B中学 |
A中学 |
B中学 |
A中学 |
B中学 |
5 |
25.3% |
0.0% |
20.4% |
9.1% |
23.1% |
3.6% |
4 |
25.8% |
7.3% |
29.0% |
7.3% |
28.0% |
18.2% |
3 |
39.2% |
72.7% |
36.6% |
50.9% |
33.3% |
47.3% |
2 |
9.1% |
12.7% |
11.8% |
25.5% |
12.9% |
20.0% |
1 |
0.5% |
7.3% |
2.2% |
7.3% |
2.7% |
10.9% |
練馬区のA中学とB中学の評定比較によって「評定の学校間格差」の実態がおわかりいただけると思います。国語に注目すると,A中学では「4人に1人が評定5,ほとんどの生徒(10人中9人)が評定3以上」なのにB中学では「評定5は0人,6人中5人が評定2または3」となっており,「まさかこれほどの差になっているとは」と私も絶句したほどです。評定「5」を連発しているA中学に問題があるのか,それとも厳しい評定をつけているB中学に注目すべきなのか,正直判断に迷います
大田区 公立中学校(2校)の評定比較
|
国語 |
数学 |
英語 |
|||
|
P中学 |
Q中学 |
P中学 |
Q中学 |
P中学 |
Q中学 |
5 |
25.9% |
0.0% |
25.9% |
1.9% |
27.8% |
2.8% |
4 |
18.5% |
10.3% |
25.9% |
28.0% |
24.1% |
19.6% |
3 |
29.6% |
60.7% |
29.6% |
43.0% |
24.1% |
51.4% |
2 |
18.5% |
25.2% |
9.3% |
18.7% |
14.8% |
20.6% |
1 |
7.4% |
3.7% |
9.3% |
8.4% |
9.3% |
5.6% |
大田区Q中学では数学で「5」をもらった生徒は全体のわずか1.9%,英語で「5」をもらったのは2.9%,そして国語にいたっては0人という,にわかには信じがたい厳しい評定となっています。このデータからだけでは読み取れない事情があるのだろうとは推察しますが,ここまで格差が生じてしまうとこの評定を合否判定に用いる仕組みそのものに疑問符をつけざるを得ません。
港区 公立中学校(2校)の評定比較
|
国語 |
数学 |
英語 |
|||
|
X中学 |
Y中学 |
X中学 |
Y中学 |
X中学 |
Y中学 |
5 |
20.3% |
8.2% |
20.3% |
4.1% |
15.6% |
6.1% |
4 |
25.0% |
26.5% |
25.0% |
14.3% |
15.6% |
22.4% |
3 |
46.0% |
36.7% |
40.6% |
38.8% |
45.3% |
42.0% |
2 |
7.8% |
22.4% |
14.1% |
30.6% |
23.4% |
22.4% |
1 |
0.0% |
6.1% |
0.0% |
12.2% |
0.0% |
6.1% |
ここでは,X中学に注目をしてください。国数英の3教科について評定「1」の者が存在せず,事実上「4段階評価」になっていることがわかります。このような中学校も実在しているのです。生徒から見れば「評定が悪くならないからラッキー!」かもしれませんが,保護者は「通知表で3をもらってきた→普通の成績」という我々の時代の常識を捨て,厳しめに自分の子どもの実力を判定しなければなりません。評定が3であったとしても「かつての評価基準であれば2(しかも1に近い2)」の可能性があることを忘れてはならないからです。その逆で,この中学のように評定が甘めにつけられている場合には「評定が5」でも過信は禁物。定期的に外部の模擬試験を受けて,客観的な自分の立ち位置を確認しなければなりません。これは,30年前には考えられなかった新しい「親の役割」なのです。(つづく)
教育クリエイター 秋田洋和
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