トップページ ≫ 社会 ≫ 恐怖の非合法賭博を描いた大ヒット漫画
社会
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大リーグ・ドジャースの大谷翔平選手の元通訳が違法なスポーツ賭博に関わり、大谷選手の銀行口座から1700万ドル近くを不正送金した事件で大騒ぎになっている最中に、大人気の賭博漫画の展覧会が東京ドームシティのギャラリーで開かれていた。1996年から「週刊ヤングマガジン」(講談社)で連載されている福本伸行さんの『カイジ』シリーズだ。単行本の発行部数は3000万部を超え、テレビアニメや実写映画にもなっている。
知人の保証人になったことで多額の借金を負い、地下の強制労働施設に送り込まれた伊藤開司(カイジ)は、そこから逃れるため、ギャンブル船内での「限定ジャンケン」をはじめ、特殊麻雀、裏パチンコ台、地上74メートルの鉄骨渡りなどに挑戦する。いずれも命懸けの非合法賭博だ。対戦相手は消費者金融が主体の帝愛グループの面々やその債務者たち。
ここに登場する賭博の数々は、ツキに支配されるよりも極度の心理戦の要素が強い。麻雀や競馬の漫画は多いが、『カイジ』では作者考案による手の込んだ新たな賭博と、登場人物たちが吐く迫真の名ゼリフで異様な世界が展開する。
作者の福本さんは工業高校を卒業後、建設会社に入ったが、すぐに辞めて有名漫画家のアシスタントになった。可能性を期待していた漫画家から1年半後、「向いてないのでは」と指摘され、新聞配達をしながら一人で漫画家をめざすことになる。漫画誌に作品を送り続けていたら、掲載されるようになり、有力な漫画賞も受賞した。そして「ヤングマガジン」から声がかかり、『賭博黙示録カイジ』の連載が開始。ここまでの福本さんの我慢強い奮闘から得たものが人生訓みたいなセリフに反映されているようだ。
「ヤンマガ」での反響は大きかった。「編集長の態度も半年で全然違って面白かった」と福本さんも懐かしむ。当時、私も同誌編集部員だったが、ギャンブル好きの名物編集長が「人物の絵を見た時はなじめなかったけど、バクチのドラマ作りはすごい」と話していたのを記憶している。
私は連載を単行本にする仕事をしていたが、独得のルールに従って話の展開を丹念に追ったので、他の作品に比べて何倍も神経を使った。作者の執念がこもったようなルールだったが、ある賭けでは選択肢に抜け道があるのに気付いた。連載担当者は見過ごし、雑誌発売後も読者からの指摘はなかったそうだ。そんなこともあって私には忘れられない作品は、まだまだ続くようで、驚異の長期連載だ。
『カイジ』の面白さに引き込まれる人でも、こんなギャンブルをしてみたいとは思わないだろう。胴元は悪党ばかりだし。だから、カジノ解禁とかスポーツ賭博推進などとは対極と言えよう。
山田洋