トップページ ≫ 社会 ≫ 教育 ≫ 【高校入試】初登場した「学校選択問題」の衝撃と今後に向けた対策について(2)
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●「学校選択問題」を象徴する設問(数学編)
受検した生徒に話を聞くと「試験終了直後には,ため息とも悲鳴ともつかない声が教室中に蔓延した」とか「試験中に女子生徒のすすり泣く声が聞こえてきた」などと,どこまで信じていいか悩むような報告ばかりで「苦戦しただろうなぁ」という印象ばかりが強く残る「学校選択問題」の数学でしたが,出題された問題の中から次年度以降の準備に向けて参考になると思われる象徴的な問題を紹介してみます。それは,計算問題や雑題が並ぶ「大問1」の中にありました。
大問1(7)②
2次方程式ax2+bx+c=0の解が,x=-b±√b2-4ac/4aであることを,2次方程式ax2+bx+c=0を変形して導きなさい。ただし,a>0とします。(6点)
数学については,「平成29年度埼玉県公立高校入試の重要な変更点(2)」において,『これまでであれば暗記するだけでよかった公式や定理の成り立ちそのものを証明させる出題も増えてくることでしょう。これこそが「21世紀型の学力」と呼ばれているものの正体であることは言うまでもありません。』とご紹介していました。これを事前に読んだ指導者の方であれば,私の想定問題が,開成高校や慶應志木高校で近年出題された「接弦定理の証明」であったこと,もしくは,
【2013年度開成高校】 xの2次方程式x2+bx+c=0がある。この方程式を変形し,解を求めよ。ただし,b2-4c>0とする。
であったことが容易に想像できていたことでしょう。埼玉では多くの塾講師が同様の想定をして生徒に指導を施していたはずで,これをもって「的中した!」と声高に叫ぶことではありません。
なぜなら「2次方程式の解の公式」は,いわゆる「ゆとり教育」と言われる時期に中学校の教科書から消えた内容の1つですが,指導要領の改訂とともに教科書に復活しており,埼玉県では復活のタイミングと前後して毎年大問1でこの公式を利用する計算問題を出題していたからです。よって,この公式を覚えていない中学生が「学校選択問題」に挑戦していることは考えにくいわけで,どこで差をつけるかといえば「はたしてどれほどの受検生がこの公式の成り立ちを証明することができるか」の1点に尽きるわけです。塾に通っていない生徒の場合は,学校の授業では時間数と指導量の兼ね合いからその成り立ちについて省略されてしまった可能性が考えられること,あるいは授業では説明されたけれど定期テストで出題される可能性は低いので復習していなかった,などの理由で準備できていなかったケースが残念ながら想像できてしまいます。
しかしながらこの1問に6点もの配点を与えることで,来年度以降の受検生に対しては「普段の勉強の段階から,公式を丸暗記して覚えるだけでなく丁寧にその成り立ちを理解する習慣も求める」という強烈なメッセージを発信することが出来た点で,象徴的な問題といえるでしょう。
次にご紹介したい問題は大問1(8)です。この公式の証明のすぐ後の設問であることにも気をつけておいてください。
大問1(8)②
11以上の自然数について,「差が2である2つの素数」の間にある自然数は6の倍数です。その理由を説明しなさい。(7点)
この1問になんと7点が与えられていることに注目してください。大問1全体の配点は全10題に対して45点であり,同じ大問1でも(1)や(2)の計算問題は1問4点ですから,この設問の比重が高いことがおわかりいただけると思います。ところがこれは,中学校の授業中にはおそらく扱われていないであろうレベルの問題で,「高校1年生の教科書・問題集」に掲載されているものなのです。類題を紹介すると,
【1963年度立教大学理学部:高1の教科書・問題集で紹介多数】pとp+2がともに素数で,p>3とする。このとき,p+1は6の倍数であることを証明せよ。
【2009年度千葉大学】5以上の素数は,ある自然数nを用いて6n+1または6n-1の形で表されることを示せ。
と,その出典が高校入試ではなく大学入試問題となってしまう点で,特徴的な問題と言えるでしょう。
「2016年版 埼玉県の高校入試で親子が知っておくべきポイント(2)」 において『整数や確率,平面図形は中学範囲と高1範囲の境界があいまいなので,中学の教科書内容の学習に終始しない大学入試に向けたアドバンテージを意識すること』と紹介していた通りの出題となっていることを覚えておき,今後の準備へのヒントとしてください。
(つづく)
教育クリエイター 秋田洋和
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