社会
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大江健三郎が1967年に書いた長編小説『日常生活の冒険』は、スエズ戦争で英仏と戦ったエジプトのナセル軍の義勇兵の会に入り、政治的大冒険を夢見る関西出身の若者が主人公だ。彼はまた性の修験者で、その飽く無き性行動も大江独特の饒舌体の文章で描写される。やがてナセル軍に参加の話はどこかに行ってしまい、悲劇とも喜劇ともつかない展開になるが、当時、義勇兵という発想が面白くて共感すら抱いた。
1970年代初頭、日本を出国した赤軍派の重信房子たちが、イスラエルに抗戦するパレスチナゲリラに加わった。この時も驚きはしたが、赤軍派の思想からすれば、特に理解不能ということはなかった。
しかし、今、イラクとシリアで勢力拡大中の過激派組織イスラム国に加わるため、シリアに行こうとしていた北海道大学生の考えはどうにも不可解だ。戦闘員として参加しようとしたらしいが、イスラム国自体にそれほど関心はなかったという。思うように行かない現状から逃げ出したいだけだったのか。
ほかにも複数の日本人が渡航を計画していたそうだ。動画まで使ってのイスラム国側の巧みな勧誘作戦もあって、現在、世界80か国から1万5000人が集まったと推定される。欧米からも社会に不満を抱いた若者たちが多数参加している。経済至上主義に対する反発、民主主義への不信が背景にあるようだ。経済成長にしのぎを削ってきた裏側に生じた格差や貧困が原因だとしたら、闇は深い。
こちらまで救いがたい気分のまま、浦和で開かれた会に参加したら、一筋の光を見た。私も会員になっている青年海外協力隊の県内支援組織が主催した派遣隊員壮行会だ。年に4度派遣され、今回、埼玉出身の隊員は14名(4名は40歳以上のシニア海外ボランティア)で、派遣先はアジア、アフリカ、中南米など、すべて途上国だ。
エボラ出血熱や各地で頻発する紛争を周囲は心配しているが、隊員たちは冷静に自分の任務について語っていた。文明とは縁遠い未開の村に向かう隊員も少なくない。草の根の国際交流を担おうとする彼らの話を聞いて元気づけられ、自分にもできる「日常生活の冒険」を試みたくなった。(文中敬称略)
(山田 洋)