社会
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米国ドジャースの大谷翔平選手が50本塁打-50盗塁という大記録を達成した。この50本目のホームランボールがオークションで、何と439万2000ドル(6億6600万円)で台湾企業に落札されたというので2度びっくり。記念ボール1個にそれだけの価値ありとする人がこの世にはいるのだ。
そんな「お宝」とは無縁の私でも「あの品を今も持っていればよかった」という例がいくつかある。持っていた時には、それが大きな価値を持つという意識がなかったのだ。
まずは小学生時代。細長い郵便小包が私宛に届いた。送り主は投稿や懸賞応募が好きだった叔父で、新聞での当選賞品の野球バットだった。白木のバットには断然の人気チーム、読売巨人軍の中心打者3人、千葉茂、南村侑広、川上哲治による毛筆サインがあった。平面ではないバットなのに、皆さん、見事な腕前だった。友だちに見せびらかして得意になっていたが、保存に無頓着だったので、次第に墨文字が薄れ、ついにはほとんど読めなくなってしまった。
20代後半には週刊誌編集部に在籍し、連載小説も担当した。時代小説の第一人者、池波正太郎さんとは、女忍者の活躍を描いた作品でご縁があった。連載中に販売部門の人から「書店のイベントに有名作家の直筆原稿を展示したい」と借用依頼があった。池波さんの万年筆書きの文字は流麗で、少しくずしながらも読みやすかった。完結時に、たまりにたまった原稿をどうするか聞いたら、「そちらで適当に処分してくれ」とのことで、迷った末に廃棄処分にした。今なら浅草にある「池波正太郎記念文庫」とかに持ち込んでいるはずだが、当時はすべがなく、今も悔やんでいる。
同じ頃、グラビア班にもいて、有名人を撮影する現場に居合わせることが多かった。しかし、その場でサインを頼むのはみっともないと思っていた。そんな私も1回だけサインをもらったことがある。相手はボクシング世界ヘビー級王者だったモハメッド・アリ選手。マレーシアのクアラルンプールでのタイトル防衛戦の取材でカメラマンに同行した。試合前日の早朝ランニングを終えてホテルのロビーでくつろいでいるチャンピオンに、彼の肖像画を印刷したポスターを見せた。北アフリカのチュニジアに旅行した際に入手したものだった。彼は喜んで、のぞき込む仲間たちにポスターのアラビア文字を説明していた。そしてポスターに「アリ語録」の1つを付記したサインをしてくれた。これは私の唯一の「お宝」として、日の当たらない部屋で大切に保管していた。それでも数十年たつと、表面に埃がたまった。その埃を取り除くため、家人が濡れた布で拭いてしまった。チャンピオンが一生懸命に書いてくれた文字が消えかかっている。それを見るのは辛い。
山田洋
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