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外交評論家 加瀬英明 論集
ロシアは、どうなるだろうか?
かつて、ソ連は帝政ロシア時代の制服を、裏返しにして着ているだけだと、いわれた。スターリンのもとでも、ロシア帝国と変わらないという意味だった。
プーチン大統領のロシアは、ロシア帝国の”双頭の鷲”の国章を、復活させている。
双頭の鷲は、一方の頭がヨーロッパを向き、もう一方の頭がアジアを向いている。ロシア帝国が、ヨーロッパとアジアの双方に属していることを、象徴していた。
プーチン大統領のロシアの行く先は、暗い。
中国も、近い将来に経済が混乱して、体制が大きく揺らぐ可能性が高いと、懸念されているが、プーチン体制もクリミアを奪ったために、経済困難が増してゆき、長くもたないものと、思われる。
ロシアは旧ソ連時代に、「父さんは宇宙、母さんは行列」といわれ、食品や、日用品が欠乏していたために、長いあいだ行列して待たなければ、物資が手に入らなかった。
今日では、ソ連時代よりも、はるかに豊かになっている。
大都市で生活していれば、朝起きると、トルコ製コーヒーメーカーでコーヒーをいれ、中国製の携帯電話を持って、外国製乗用車で出勤し、韓国製パソコンを使って仕事をするというように、消費財が溢れている。しかし、ロシア製となると、何一つない。
ロシアは先端兵器や、宇宙ロケットをつくれても、採取経済と狩猟経済によって成り立っている。そのために、縄文時代の国と変わりがない。
金銀、ダイアモンドをはじめとして、地下資源が豊かに産出するが、なかでも石油と天然ガスの輸出に、経済が過剰に依存してきた。黒貂などの帽子や、コートも有名だ。
プーチン大統領は、原油価格が高騰していたあいだは、”名君のイメージ”によって包まれていたが、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)諸国が輝きを失うなかで、クリミアを奪う前から株価とルーブルがともに下落して、経済が不況に陥り、インフレに見舞われるようになっていた。
政権によって統制されたマスコミが、クリミア併合を称賛したので、プーチン大統領の支持率が急騰し、80%を超えた。
ロシアはヨーロッパに対して、愛憎が混じった屈折した感情をいだいてきた。
ロシアは、ソ連が崩壊した後に、NATO(北大西洋条約機構)が、ソ連帝国の解体に乗じて、東ヨーロッパの旧衛星諸国を加盟国として取り込み、同時にこれらの諸国をEU(ヨーロッパ連合)に招き入れて、結果として、ロシアが、ヨーロッパから除け者にされたことによって、深く傷つけられた。
ロシアがEUから除外されたのは、EUの規定によって、EU議会の議員数が人口によって配分されており、どの国よりも人口が多いロシアを迎え入れることがあれば、ロシアに最大の議員数を、割り振らなければならなかったからだった。
ロシアではクリミア合併によって、株安、ルーブル安がいっそう進むかたわら、1000億ドル以上の現金が、国外に逃避したと推定されている。世界銀行は2014年のロシア経済の成長率が、マイナス1.8%に落ち込もうと、見積もっている。
プーチン大統領は、アメリカとEU諸国による経済制裁が強まるのに対して、”双頭の鷲”の一方の頭を、いっそう、アジアへ向けるようになっている。
ロシアが西側世界の中で孤立化し、経済が困難を増してゆくなかで、ロシア国内でプーチン政権に対する不満が高まってゆくことになろう。
プーチン大統領の最大の敵は、”北アメリカ・エネルギー革命”だ。
1991年に、ソ連が崩壊した大きな理由の一つが、原油国際価格が暴落したことだった。2014年に入って、バーレル当たり110ドルを超えていた原油価格が80数ドルまで、落ちた。
アメリカでは、シェールオイル、シェールガスの生産量が急伸している。アメリカは2007年から12年までの間に、シェールオイル、シェールガスの生産量が18倍も増え、2020年に石油・天然ガスの輸入国から、輸出国に転じる。
2013年に、アメリカは石油・天然ガスの生産量で、ロシアを追い越した。2014年には、サウジアラビアを上回ることになる。
アメリカが世界最大の”エネルギー超大国”として、出現しつつある。
これまで原油価格は、OPEC(石油輸出国機構)によって保たれ、バーレル当たり90ドル/110ドルで推移してきた。だが、OPECが原油価格を決定してきた時代が、過ぎ去ろうとしている。
今後、”北アメリカ・エネルギー革命”によって、原油価格が下落しよう。
そうなると、インドネシア、メキシコ、コロンビア、ペルシア湾岸産油諸国、イラン、アフリカのナイジェリア、アンゴラなどの諸国のなかで、ロシアとサウジアラビアが強い打撃を蒙ることになろう。
プーチン大統領は国内を掌握するために、近隣諸国に対して軍事力を用いて、いっそう攻撃的になるのではないか。
中国の習近平国家主席が「戦争の準備を整えよ」「強軍の夢」と演説しているが、ロシアについても、同じことがいえる。
オバマ政権は、腰がすわっていない。 強風にさらされて、翻弄されている。
アメリカはいつまで超大国でいられるか 第7章中国、インド、ロシアは、アメリカを超えられるか
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