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外交評論家 加瀬英明 論集
日本では学校が崩壊したような状況に立ちいっている。教室の規律があまりに乱れたために教職を捨てる者や、生徒ではなく教員の登校拒否が珍しくない。
日本はこの十年以上も閉塞感にとらわれてきたが、ようやく国のありかたを総点検しようという気運が生まれている。
二00六年に教育基本法が改正されたが、多くの国民が学校教育の質が劣化したことに対して危機感を懐くようになったためだった。
教育基本法が改正されて、日本の前途にほのかだが燭光を見る思いがする。新しい基本法に「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」という、それまでなかった文言が入ったのをはじめ、いくつか重要な手直しが行われている。それでも、独立国にふさわしいものとはいえない。
ここまで混乱した国を建て直すのは、一朝にしてできることではない。だが、日本に残された時間は少ない。
独立国であれば外敵から国を守ることは、国民の当然のつとめであるのに、まったく触れていない。自衛隊という言葉もでてこない。日本国憲法第一章第一条に規定されているのにもかかわらず、皇室も登場しない。皇室は日本の「伝統と文化」の根幹を形成しているものではないか。
教育基本法が改正され、二00八年に入ってから学習指導要領と学習指導要領の解説書が改訂された。
新しい学習指導要領で、「ゆとり教育」を見直して、授業内容を充実させ、授業時間を増やした。これまで文科省は「ゆとり」という日本語を誤って使っていた。本来、ゆとりは忙しいなかで生まれる暇のことである。
解説書にも多くの改善が施されている。小学校用解説書は「天皇が国民に敬愛されてきたことを理解できるようにすることが大切である」、「天皇についての理解と敬愛の念を深めるように」と求めている。中学校用の解説書は「自衛隊が我が国の防衛や国際社会の平和と安全の維持のために果たしている役割」について教えることを定めている。
それでも、私は多くの不満をいだいている。新しい教育基本法にも、学習指導要領や解説書のどこを読んでも、農業の重要性に触れていない。歴代の日本政府が商の論理を優先させて、農業を荒廃させたためである。
いま日本の食糧の自給率はカロリーベースで、三十九%まで危険的なまでに低下している。
だが、この数字は正しくない。国産の牛豚鶏などの飼料をほぼ全て輸入しているから、国産とするべきでない。自給率はさらに低いものとなる。
日本の国本は、国の基礎が歴史を通じて農村にあった。農本主義も死後になった。つい昨日まで東京や大阪のような大都市も巨大な農村であって、農村の人と人との互助の絆が隣近所を結んでいた。私たちはどこに住んでいても、生き生きとした農民の心を持っていた。
私たちが森や海を見たり、風に頬をうたれると寛ぐのは、有機的な時間を感じるからだ。農村には生命に適った時間がある。今日、私たちは無機的な時間によって支配されている。
中学校から武道が必修科目となって学校に道場をつくることや、三味線や琴など邦楽が教えられることになったのも高く評価したい。武道や邦楽のリズムが、日本人の所作をつくっていた。
教育基本法の改正を受けて、文科省が教科書検定制度の見直しを進めているが、抜本的な改革が待たれる。いまだに全国の学校に、日本国憲法の戦争放棄条項が世界のパラダイムとなりつつあるとか、ことさら日本軍を悪者に仕立てて南京や沖縄で法外な残虐行為を働いたとか、事実を大きく歪める記述が行われた教科書が堂々と罷り通っている。
(自由20年11月号より つづく)