トップページ ≫ コラム ≫ 男の珈琲タイム ≫ ラガーマンの孤独
コラム …男の珈琲タイム
足ではなかった。脚というにふさわしかった。茶褐色だが黒光りする長く太い脚は50メートルを5秒台で走り抜けた。その男がボールを抱くと弾丸を抱えているようにみえた。今、最も熱いスポーツ、ラグビー。その男はラガーマンの名を惜しむなく発揮して、青春を駆け抜けた。高校、大学、社会人と。
しかし、結婚が彼を狂わせた。奥さんにナメられた。性格は良かったが酒癖が悪かった。だらしなかった。そんな彼を奥さんはせせら笑った。「何がラガーマンよ!そのパジャマ姿で街を走ってきたら!あっパジャママンだと皆に笑われるから」いつの間にかラガーマンはパジャママンになった。ラグビーはやめて、ヒマさえあれば独りで釣り糸を垂れた。その寂しい後ろ姿からは昔のラガーマンは消えていた。夕日を背にして糸を垂れている孤影はまさに孤独なうらぶれたラガーマンそのものだった。