週末、家族と外出ついでに帰りに外食を、ということで餃子の王将をセレクションした。駐車場もほぼ満杯に近いので、嫌な予感はしたが、行列ができている。しかも1組や2組ではない。10組近くである。
リーマンショック以降、消費マインドが下がって外食産業にも大きな影響が及ぶ中、餃子の王将はほぼ一人勝ち状態を続けている。2010年3月期の売上予想は626億円前年比14%増、経常利益は42%増の88億円という好調さ。しかも長期間増収増益を続けている。
通常、ファミレスといえば、工場でつくられた料理を冷凍して各店に運び、注文を受けたら温めて出すというスタイルが主流。
ところが王将では、野菜を刻むことから始まって、多くの工程を現場の調理人が手作りで行う。しかも各店毎にオリジナルメニューが考案されているそうだ。このスタイルがメディアなどでも取り上げられ、徐々に幅広い人気を呼んでいる。
そもそも餃子の王将はチェーンではあるものの街角の中華料理店といった雰囲気の店づくりからスタートし、郊外型の大型店が見られるようになったのは比較的最近のことである。大学時代を関西で過ごした筆者は数え切れないくらいの夕食を餃子の王将でお世話になった。余談だが、当時(約20年前)はチャーハン250円、焼きそば250円、餃子150円。これだけ食べて650円。運動部に所属する大食漢の学生にとっては有り難い味方なのだった。
高級中華店にはそう頻繁には行けないが、かといって「安い、味は普通」の店にお金を落とす気もない。満足度の高い味とサービスにして、しかも安いお店しかリピートしようという気にならない。餃子の王将は、そういった多くの消費者をファンに取り込んだ。
話を元に戻そう。一見、経営的には一般のファミレス・スタイルが効率的なように見えるが、舌の肥えた現代人にはどうにも味気ない。ファミレスの味に強い思い入れを持つ人はごく限られていることだろう。「安い、味も値段通り」では、不況下にあっては一番先に切り捨てられてしまう。「安い、美味い」は両立せねば見捨てられてしまうというわけだ。消費者は残酷である。
これは、どんな業界にも言えるのだろう。私がかつて勤めていた印刷会社も時勢にならって3代目経営者が業務の効率化を唱えだした。いくつかの部署の統廃合を行って職種によっては随分と配置換えをした。
これでうまく行ったか。長い目で見れば、×だった。そもそもその印刷会社は、いわゆる「刷り屋」とは大きく異なり、顧客に寄り添ってコンセプトメイク・企画などゼロからオーダーメイドで構築し、デザイン・編集・DTPといった制作工程を完全内製化できることを大きなウリにしていたからだ。
効率化に当たっては編集部と製版部とDTP制作部を合わせて制作部とした。これによって編集者が激減し、それまで微に入り細に入りお客様とのやりとりを続けて顧客満足度の高い仕事をしていたが、それができなくなった。制作予算も少ない仕事で制作担当者が1案件に必要以上に時間を費やすのは無駄だというのである。
一方、それまでDTPの最終完全データは製版部で仕上げていたが、本来は創意工夫に最も労力を使うべきデザイナーが印刷対応の画像データをレイアウトにはめ込んで完全なものに仕上げるところまでを担うようになった。これに大きな注意を払うことで、本来求められているはずのデザイン力が大幅にパワーダウンし、コンペ・プレゼンなどにおける競争力を徐々に失っていったのは皮肉と言うしかない。
結果として、売上は最盛期と比較すると2〜3割ダウン。いま気づいても、かつてのパワーを再構築するには多くの時間を要するに違いない。いや恐らく経営者は不振の原因を経済状況のみに求めて、真の原因を悟ることはないだろう。
業務の効率化。経営環境を改善するために誰でも考えることだろうが、企業のウリは何なのかじっくりと検討してから、決める必要がありそうだ。効率化を求めているのは経営者であって、必ずしもお客ではない。お客の立場からいえば、一見非効率的と思える部分にこそ企業の魅力が潜んでいるかもしれないのである。効率化を優先したがために、競争力の源泉を失ってしまう。効率化に惑わされない原点のような何物かを、私たちの誰もが考える時期に差し掛かっていると感じられる。それは高収入層をターゲットにした業界ばかりではない。きめ細やかなサービスで多くのファンを獲得した餃子の王将の繁盛ぶりを見て、そう思った。
(磯 尚義)



