公共事業が入札制度によって業者の決定がなされていることはみなさんよくご存知のことだろう。談合を防止するためほとんどの入札が、国・県・市ともに指名競争入札(※1)から一般競争入札(※2)へと移行しつつある。過渡期の一時的な不合理といってしまえばそれまでなのだが、発注者側の都合で足並みがそろっていないところにいくつかの問題点が生じてきている。一般競争入札とは言っても、各行政団体の建設工事等競争入札参加資格を有していること、指定地域に本社もしくは実態のある営業所を有していること、経営事項審査結果(※3)総合評定値、施工実績、格付制限等々の条件をつけて公募されるのであるから、むやみに誰でもが参加できるわけではない。
県内H市の建設工事の公告は1.入札対象工事として工事名、工事場所、工事期間、設計金額。2.工事概要として工事内容が具体的に示される。3.総合評価方式に関する事項(別紙参照)。4.入札日時及び場所。5.落札者の決定 6.入札に参加できる者の形態 7.入札に参加する者に必要な資格 8.入札参加資格の有無の確認 9.技術資料の提出 10.入札参加資格の有無の再確認 11.設計図書 12.現場説明会 13.設計図書に関する質疑 14.入札に関する注意事項 15.低入札価格調査制度に係る調査基準価格 16.入札保証金 17.入札の無効 18.契約保証金 19.支払条件 20.契約条項等の閲覧 さらに総合評価方式に係る入札説明書がついてA4の用紙12枚ほどになる。
一件の公共工事の受注に提出する書類の量は膨大なものとなり、書類を揃えたからといって確実に受注できるとは限らない。あくまでも競争入札に参加するだけの手続きである。必然的に事業者の事務量は膨大なものとなり専門の事務員を確保し、人件費が増大する。さらに総合評価方式一般競争入札の決定基準の中には技術能力などとともに社会貢献度などが含まれ、災害防止活動等の実績、CO2削減対策、社員の新規雇用、公共施設へのボランティアまでが求められている。入札希望者を絞り込むために役所側の都合で、さまざまな条件を付加することによって落札業者をある程度絞り込むことが可能なのだ。公平性を旗印にしている一般競争入札制度にも大きな落とし穴がある。
地元の業者を育成することが行政の役割のひとつであることは言を待たない。阪神大震災や中越地震の際に復興段階になってから生じた地域間に生じた格差の原因のひとつは、地元の関連業者の力量にあったことは否めない。すなわちインフラの復興のために一番活躍したのが地元の業者であり、業者の不足していた地域の復興は後回しになったという現実が証明されたようなものである。いまだに仮設住宅住まいを強いられている方々も多い。
行政は公平な受注機会を公開するとともに、業界の健全な育成という課題を抱えている。近年景気の低迷と税収の減少、さらに地方交付税の減額など財政状況は目に見えて悪化している。従来、工事の安全、確実な施工を期待して発注する際の入札の段階で最低落札価格を定める場合がほとんどであった。談合防止の機運のなかで落札価格が低下する傾向にあるが、設計段階で計算された設計価格は国土交通省の指標に基づいてたたき出されている。地域・あるいは経済動向によって材料費や人件費に多少の変動が生じることもあるがおおむね妥当な価格ということができる。業者は公表されている設計価格を元に企業努力を限りなく振り絞り少しでも安く仕上げ他社に負けまいと必死なのである。しかしながら限度を超えた値切りは、人件費は言うに及ばず、資材の納入業者への不当な圧力や支払いの遅延などを生じて経済上の問題を起こしかねない。そこで発注者側は従来、最低制限価格を設けて不当な過当競争を防止してきた。ところが昨今の入札の場合最低制限価格を設けることをせずに、過当競争の奨励をしているかのごとき状況が各地の行政に見ることができるようになってしまった。行政側に財政状況の悪化という事情があるとはいえ、先にも示したとおり業界の育成は、地域の経済振興のほかに、重大な使命のひとつである市民・県民の危機管理を如何に効率よく行うかという課題をも抱えている。最低落札価格を設け、過当競争に歯止めをかけない限り、業者間の値切り合戦を防ぐ手立ては今のところ見当たらない。過当競争は業界の疲弊を招き、倒産による失業者の発生や地元産業の衰退等を招き更なる悪循環に陥る。事実、この厳しい経済状況の中で業者の数は激減した。経済循環の中で自然淘汰が進んだなどといって、澄ましてはいられない。
(※1) 一般競争入札:入札情報を公告して参加申込を募り、条件を満たしたすべての参加申込者の競争によって契約者を決める入札方法。
(※2) 指名競争入札:発注者(地方公共団体など)が入札参加者選定の段階で入札に参加できる者を指名して行う入札制度。発注者は受注希望者の能力や信用などを指名の段階で勘案し、これらに疑いのある業者を入札以前に排除することが可能である。受注希望者の地域貢献度を重視することや、契約後、受注者の能力不足や信用度の欠落によるトラブルを未然に防ぐことが出来るため、かつては地方公共団体を中心に入札制度の主流となっていた。
(※3) 経営事項審査結果:日本の建設業において、公共工事の入札に参加する建設業者の企業規模・経営状況などの客観事項を数値化した、建設業法に規定する審査。略して経審(けいしん)とも呼ばれる。




